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W.ウィルソン「アメリカ大都市の貧困と差別」レビュー

今回は私が読んでみて、興味深かった本を紹介します。

W.ウィルソンは、ハーバード大学の教授で、都市社会学、人種、階級問題に関する数多くの本も出しています。
アメリ社会学会の会長も務め、国家の委員会にも何度も参加している方です。
ここで紹介する「アメリカ大都市の貧困と差別」では、アメリカ大都市で貧困と差別がなくならない理由についてわかりやすく説明しています。

それでは軽く内容について説明していきます。

アメリカの都市の人種的反目の根本的な要因は何か
この問いに関してW.ウィルソンはこのように答えています。
「われわれは人種的反目は状況-経済的状況、政治的状況、そして社会的状況-の産物であるという事実を忘れたり、見過ごしたりしている。」
簡単に言えば、アメリカの人種差別は、ただ単に”人種”に対する憎悪が原因ではない、というのだ。
経済的、政治的、社会的状況が絡んだ結果としてアメリカの人種差別は生まれていると彼は主張する。

・中心都市と郊外の間の人種境界線
1960年アメリカの人口は、都市と郊外と田園地帯に均等に分かれていた。
一方で1990年アメリカの人口は、都市と田園地帯の人口は減少し、郊外が人口のほぼ半分を有するようになったのだ。
そこで着目したいのが、人口が失われるにつれて、その人種的、民族的構成はより貧しくなり、肌の色は濃くなったという点だ。
具体的数字としてシカゴ市を挙げる。1990年マイノリティがシカゴ市全体の63%を占め、シカゴ市郊外の83%が白人であった。
20世紀後半、アメリカでは人々の郊外化が進んでいた(要因としては交通手段の発展と、人々の郊外化に伴う工場の移転などがある。詳しくは本の中で説明がある。)。
この都市と郊外の間での人種的境界線ががアメリカ大都市での人種的差別を生み出す要因となったとW.ウィルソンは主張する。

カニズムとしては、人口の郊外化の進展により都市の政治的影響力が減少(景気後退により市自体の歳入の減少も重なる)
  →多くの都市で財政とサービスの危機。ホームレス、暴力、犯罪の増加。
  →引っ越す資力のある住民がさらに郊外へ
  →都市の税基盤はますます悪化、歳入減少
という流れである。

これらの状況下において、都市にとどまる黒人、その他のマイノリティ、都市の白人の間の相互作用が、アメリカ大都市の貧困と差別を生むと説き、

中心都市の権力と特権をめぐる人種闘争は、本質的に持たざる者の間の闘いである

と述べている。
つまり交通手段を手にし、郊外で生活する余裕のない低収入の白人と、ラティーノ、黒人、アジア人の間で数少ない資源をめぐって争いが起きるのである。

今説明したメカニズムには、郊外化の詳しい経緯や内容、アメリカ政府がとってきた人種的緊張を高める政策(住宅政策)、公民権運動の進み方など、ほかにもたくさんの要因が複雑に絡み合っています。W.ウィルソンの「アメリカ大都市の貧困と差別」では、それらについて多くの人にわかるように丁寧に書いています。難しくない論理構成で書かれているので、今まで政治や社会にあまり関心をもってこなかった方でも安心して読むことができると思います。

日本に住んでいるだけではイメージすることの難しいこの問題ですが、この本を読むことで今のアメリカでの人種差別を理解するきかっけになる本です。
そう遠くない将来に移民を受け入れる可能性の高い日本にとっても考えておくべき問題なのかもしれませんね。
少しでも気になった方は、一度読んでみるのはいかがですか。