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資本主義世界経済における世帯構造と労働力の形成

巨視的な観点から世界の歴史・社会全体を「単一のシステム」ととらえる「世界システム論」を提唱・確立したことで知られるアメリカの社会・歴史・政治学者、イマニュエル・ウォーラーステインは、資本主義世界経済において世帯構造と労働力の形成が密接していると述べている。そこで彼のこの考え方を分かりやすく解説したい。

イマニュエル・ウォーラーステインの主張

彼の大きな主張は、「世帯は資本主義世界経済の主要な制度的構造の1つを形づくっている。」である。
それを立証するにあたっていくつかの根拠を述べている。

資本蓄積者の観点

資本蓄積者の関心は時間的、空間的に可変的で、できるだけ安い費用水準の労働力を得ることで利益を享受することだ。しかしながら、労働力が階級勢力として自らを組織し、システムそれ自体の存立を脅かさないようにする必要が生じる。


つまり資本主義世界経済のもとでその理念に基づいて、資本蓄積者が利益だけを求めて好き勝手やることは制度そのものの崩壊につながるというのだ。そのため資本蓄積者は、中間指導者層に剰余の一部を受け取らせることでシステムにふさわしい政治的防衛機構を保証するなどの対策を考える必要がある。問題は、資本蓄積者の観点からは(つまり一群の競争的な個人としての立場と、それと矛盾した集団的階級 としての立場からは)、どんな種類の制度が労働力の形成という点では最適だろうか、と筆者は述べている。


そこで、今回筆者が主張するのが、「労働力の形成に最適な制度が世帯」ということである。

世帯の特徴

世帯は市場のさまざまな圧力に急激に順応するのを拒みながらも、ゆっくりと順応する性格を持っている。この穏やかな順応性の保持は、地域性、賃労働、エスニックや性による階層化によってもたらされる。


また、所得プール単位(比喩的に言えば、 食事を共にすること)としての世帯は中規模なもので資本主義世界での労働力形成に適応するのといえる。世帯はあまりにも小さな単位になるのを回避するために、 血縁関係のネットワークを超えて非親族をも組み入れ ることもあった。 また、 あまりにも大きな単位になるのを避けるために、 相互義務に対する社会的かつ法的な制限が行われてきた。小さすぎれば再生産のコストは高くなるし、大きすぎれば賃労働市場への参入圧力は減退する。


ただし、世帯の構造は資本主義世界経済の中で緊張関係をはらんでいることには留意したい。世帯は労働力配置に適応すると同時に、それに抵抗する要塞にもなりうる。世帯の制度的順応性は資本蓄積者にとってメリットでもあったが、同時に圧力に対抗する際にも有効性を発揮した。





今回は、エティエンヌ・バリバール,イマニュエル・ウォーラーステイン著,若森章孝他訳『人種・国民・階級―「民族」という曖昧なアイデンティティ』(唯学書房・2014年)中の論文から、イマニュエル・ウォーラーステインが主張した資本主義経済における世帯構造と労働力の形成、という考え方について簡単に紹介しました。彼は近代に再興された一国的アプローチ(「社会」といえば暗黙に国民国家が前提となる発想)を批判し、社会科学は世界を単位として再構築されなければならないと主張したことで有名ですが、とても勉強になります。冷戦期においても、資本主義と共産主義の二項対立で描かれがちな世界を否定し、世界を1つとして考えるべきと述べましたが、そのとらえ方にはとても共感できます。私もこの論文にとどまらず色々な関連図書を読みたいと思いました。


politics-news.hatenablog.com
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